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近代日本に“藪の中”出現

建設メディア顧問
マスコミ人OB会福島ペンクラブ会長
元福島民報専務・編集局長 星一男氏
星一男氏

 芥川竜之介の短編小説「藪の中」といえば、野盗と侍の森の中での女人への暴行をめぐるウソのつきあいの話で、カンヌ映画祭で見事グランプリを取った名匠黒沢明監督「羅生門」の原作となった。映画は、二人の男が互いにウソを言って相手のせいにするやりとりの連続で素人観客は飽きてしまうが、そのやりとりは人間の本質を剥き出しにし、人の欲望を描きあげている。その昔の話が今、近代的な日本のど真ん中に出現している。「強度偽造マンション事件」だ。大都会にニョキニョキと首をもたげる高層マンションは福島や郡山でもお馴染みの風景になったが、この近代的で快適な住まいも一皮むけば、こんなあくどいやり方で作られていたのか、と最近になく唖然とした事件だ。ローン35年、その1年分を支払ったばかりで、震度5強の地震で崩壊する欠陥建物、と知らされたサラリーマンが「3歳の娘がテレビニュースを見ながら“このマンションが壊れるんだよネ”と言うんですよ」と泣き崩れた姿が脳裏に焼きついて離れない。全部がこうだ、とは言わない。だが売り主から建設業者までの系統図を見せられても、一遍では飲み込めない伏魔殿的な関係の中でマンションは建てられ売られていたのかとびっくりした。そして、その中でとんでもない不正が行われていた。人間不信が限りなく膨らんでゆく。

 “誰かがウソを言っている”輩5入が一堂に集まった11月29日(火)の衆議院国土交通委員会での参考人証言を聞いた。建築主つまりマンション売り手の小島進ヒューザー社長、建築施工の木村盛好木村建設社長と篠塚明元東京支店長、“お目付役”指定確認検査機関の藤田東吾イーホームズ社長らだ。肝心要の設計者の姉歯秀次1級建築士は「殺されるかも知れない」などと言って欠席した。委員の質問にそれぞれが自分の立場を主張し、互いにいがみ合い、大声を上げ、事実は食い違った。21世紀の「羅生門」劇が展開されていた。それは責任の押しつけ泥仕合だった。娘の言葉に泣き、あと34年タダ同然のローンを払い続けなければならない買い手、住人を思いやる言葉は一つも無かった。建設業界って、こんなひどい世界だったのか。何べんも言うように業界全部がこうだ、とは言わない。しかし、こんな非道が罷り通れた業界だったことも問違いない。そして行政機関もだらしが無かった。バブル崩壊からやっと這い上がる矢先、日本は仁義も信頼も無い国になってしまっていた。信頼が失われた社会、それは全員が敗者の社会だ。21世紀になって、彼方に斜陽の日本が見え隠れしている。(2005・11・30)


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