なぜ、インカの人々は空中都市に住み、
そして、空中都市を捨てたのか
(後編)

 
大 村 一 夫(大和地質研究所代表)
 
  空中都市には、貴族達の居住区間と畑以外に平坦地がない。これは、湿地が存在しないことを意味し、土壌流出が無いことは、適度に乾燥していたことを意味する。これに、上下水道の完全分離、排泄物。農作物のリサイクルの完結度の高さが加わるのだから、空中都市は、風土病の発生を防ぎ、極めて衛生的な住環境を実現させるには、申し分ないものであったと思えた。なるほど、インカの指導者は賢明であった!と納得した(ような気分になった)。

  燃料なしでは、空中都市でも、人々の生活は成立しない。インカでも、当時の燃料は、薪が主体であったろう。その産地は、空中都市の周囲の山腹斜面に自生する木々であったろう。ひょっとすると、この木々の中にも、貧しい人々の生活空間があったかも知れないし、家畜も放たれていたかもしれない。また、貧しい人々の食糧の一部を生産していた可能性もある。
  燃料を得るため、木を伐った場合、再生産速度との間にバランスが取れていれば、無限に燃料が確保できる。しかし、バランスを崩して伐ると、やがてハゲ山となり、人々の生活も成り立たなくなる。地球上の古代文明発祥地のほとんどが、乾燥気候に変じ、砂漠化しており、その文明国家は滅亡している。その原因は、燃料を得るため、木々を伐採しすぎたことにある、というのが定説化している。
  空中都市においても、この定説は成立したのではなかろうか。元々、空中都市及びその周辺は、木々の生育に適した条件下にあったとはいいがたい。人々が空中都市を築き、清潔な住空間を確保したとしても、空中都市を維持する多くの人々が必要とする燃料を供給し続ける再生産能力を、そこに自生している木々に求めるのは、無茶な相談だったのではなかろうか。

  空中都市の維持には一定の人数が必要である。人数を規制するのは食料の生産能力ではなく、実は周辺の木々の燃料供給能力であったと思い至った。そして、空中都市を捨てて、インカの人々が他所へ移住した原因もまた、周辺の木々をすべて伐採し尽くした(燃料が枯渇した)ことにあるに違いない、ととりあえず納得した。また1つ、謎が解けた。と、感じられた。

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