都市直下型地震との共生を考えよう
―兵庫県南部地震が示唆するもの―(1)

1.はじめに
 兵庫県南部地震は、日本人に直下型地震の恐ろしさと人知の浅はかさを思い知らせた。
 日本列島は世界有数の地震多発地域に位置する。そして、我々日本人のほとんどは、末代までも、この列島に住み続けなければならないという宿命を負っている。また、誰も地震を予知する手だてや地震をコントロールする手だてを持ちあわせていない。したがって、1,000年に1回の割合で発生するという直下型地震に対して、我々日本人は、人的被害を最少に押さえる工夫をしながら共生する他ないのである。
“科学技術庁は、兵庫県南部地震(M=7.2)を踏まえて、国の「防災に関する研究開発基本計画」に基づき、地震災害対策に対して早急に推進すべき研究開発課題をまとめ公表した”とマスコミが報じた(平成7年6月2日)。
 この計画は同地震発生後、緊急に設置された「地震防災科学技術推進検討会」がまとめたもので、地震防災のための科学技術と言われるものは「安心できる街づくり」と「いざという時の備え」及び「円滑な復旧・復興」とで構成されている。
 「街づくり」では、防災面からみた地域の重要性を判定し、対策費用と便益を数量的にはじき出す手法を開発し、火災による廷焼を予測する手法も開発する。「復旧・復興」では、大規模な疎開手法と、損壊した構造物の早期撤去・補修技術などを研究する。そして、これらの一部については、平成7年度から研究開発に乗り出すとしている。
ここに示された研究課題については、一日も早い着手と短期間での成果の獲得を期待したい。しかし、新聞報道には、地震防災都市の究極の姿が示されていないこと、この研究課題によって、人命の損傷や建築物の崩壊、あるいは社会不安がどの程度まで軽減されるのかが示されていないので、我々は直下型地震と折り合いながら、本当に生き延びてゆけるのかと不安を覚える。また、行政の取るべき地震災害対策に、地域住民の連帯感や自発性を高揚させ、住民の地震災害に立ち向かう勇気と技術を与えるという視点が欠けているように思える。
 どのような地震に対しても絶対に破壊されない建造物を造ること、一名の人命も失わないことは、可能かもしれない。しかし、1,000年に1回の割合で直下型地震が発生すると仮定すると、地震に出会わずに一生を終える人の方が圧倒的に多いのだから、全ての人にトーチカや核シェルターの様な頑丈な建造物を造れと言ったり、直下型地震で一名の死者も出さないことを目標に掲げることは、経済効果上問題があろうし、不可能を可能と言うに等しいのではないだろうか。
 現状では、直下型地震の予知に向けての努力は続けるとしても、実用化は不可能と覚悟し、死者ゼロが仮に実現したとしても、それは正に僥倖と言うべき偶然の産物に過ぎないと認識すべきであろう。その上で、建造物は全て破壊されても、死者の数を兵庫県南部地震時の2分の1以下、あるいは3分の1以下に減少させる方策を考え出さねばならない。そして、若者を中心とした近隣地域の一体感を醸し出す仕掛けの必要性を感ずる。
この様な視点に立ち、直下型地震対策を考えると、地震を「柳に風と受け流す」という発想の下に、住民が自発的に災害に立ち向かえる仕掛けを作り、その仕掛けを維持し続ける工夫をすることが大切であると思う。
平成7年6月6日から8日までの間、神戸市内の被災地及び淡路島の被災地と地震断層(野島断層)を見て廻った。その結論として、地震予知も大切だが、それよりも人命の損失を如何に防ぐかが大切であること、その対策は可能であることを知った。

2.兵庫県南部地震で露呈された問題点と対策案
 今回の地震で露呈された問題点は少なくない。新幹線・自動車道で代表される高速交通システムやライフラインが被災すると、都市生活者の大量死を招くと。都市にとっての致命的な問題点については、人的被害は少なかった。だからと言って、それで良い訳はない。
 ここでは、市民の生死に係わる問題点のいくつかを思いつくまま取り上げてみる。

2―1.建物(主として木造住宅の問題)
a)地震により生じた事実
 今回の地震では、一瞬のうちに家屋は瓦礫と化し、多数の人が生き埋めになった。死者6,000人余りのほとんどが瓦礫と化した家屋によって圧死し、あるいは生き埋めにされて死亡したのである。瓦礫から脱出できずに焼死されたお気の毒な方々も少なくなかったと思われる。
地震によって瓦礫と化した家屋は、在来工法で建てられた瓦葺の古い木造家屋が多かったと言われているが、そのほとんどは老朽化したもの、耐震性を考慮した設計施行がなされていないものであったらしい。また、つぶれた家屋のほとんどは、一階が二階や屋根を支えきれなかったのだという。
 被災地では、破壊された家屋の撤去跡である広い空き地を見て廻った。野島断層上を除くと、コンクリートの基礎やたたき、あるいは路地のアスファルト舗装は驚くほど原形を保ち、破損個所は少なく、あっても軽微なものが多かった。破壊されたのは家屋の駆体だけといっても過言ではなく、地震による家屋の破壊の原因は、家屋そのものにあったと言えよう。空き地にポツリポツリと残る無傷の家屋を見ると、そう古い物ではないという他は特に共通した特徴があるわけではなかった。建て主か設計者か大工か、いずれかわからぬが、家を建てる際に無意識に何らかの工夫や細工がなされていたのではないかと思わざるを得ない。いずれにしても、明暗を分けたのは、きっとごく些細な配慮であったに違いない。

b)対策案
 直下型地震による死者を減少させるもっとも有効な手段は、生き埋めになることを防ぐことに尽きる。生き埋めになったとしても身体の周辺に空間を保ち得れば、救助を待つ時間を稼ぐことができる。時間を稼ぐためには、火災の発生を防ぐことも大切ではあるが、まずは一瞬の圧死を防ぐことにある。
柱と横木がはずれない様、金具などを用いて補強したり、開口部と壁面のバランスを考えたり、基礎を強化し、柱や壁を固定するなど、工夫の方法はある。新築家屋には建築確認申請の際の指導などで手の打ちようはある。しかし、申請内容と施行物とが一致しているかどうかの確認がなされていなければ、有効な対策にはなりえない。規制のない既存家屋の補強は大変である。既存家屋の施行不良・メンテナンス不在は個人の財産に係わることだから、行政からはどうにも手が出せない問題であるのかもしれない。
 1,000年に1回の割合で地震が発生するとして、いつ来るかわからない地震の対策のために、今建てる家屋に、あるいは今住んでいる家屋に余分な金などかけたくない人もいるだろう。地震予知が出来るようになったら、しばらくの間他所に転移し、様子を見ようとか、うまく売り抜き安全な所に移ろうと考える人もいるだろう。これらに平等に対処するのは不可能であろう。また、全ての家屋を地震から無傷で守ることも不可能である。地震によって家屋は必ず破壊されると覚悟し、破壊されても人命の喪失を半減させ得る工夫を考えたい。

 車には車検という制度がある。これを家屋などの建造物に取り込めないだろうか。いわゆる“家検”である。車検の制度では、公道を走れるのは、整備された自動車のみで、合格すれば3ヶ年ないしは2ヵ年間の使用を保証し、交通安全を確保する。そして、許可期間は、12ヶ月毎の点検を行い、自己責任で所有車を整備するという厳しいことになっている。
 一台200万〜300万円で購入可能であり、使用期間は買い替えを考えると数ヵ年に過ぎないのに自家用車の所有者にこのような厳しい義務を課しているのだから、価格が一桁高く、使用期間も一桁長く、多人数が常時寝起きし、可燃物に囲まれた室内で裸火を使うことが珍しくもない家屋に、自家用車並みの整備義務を課すことは当たり前でなかろうか。兵庫県南部地震では整備不良家屋(老朽家屋・手抜き工事家屋など)が多数の市民の命を奪ったと考えられるのであるから、家屋所有者の責任は重大であることに注目すべきではなかろうか。
あらかじめ定めた地盤条件と予想震度に基づき点検項目を定め、指定技術者に点検・修理・補強を実施させ、基準に合格したら「適」マークを表示させる。罰則規定はつくらないが、「適」マーク付き家屋のみが売買・賃貸の対象になるとか、諸税が減免されるとか、火災・地震保険でも優遇処理があるとか、多くの人々がこれに従えばメリットがあると思える工夫をすれば、普及するのではないだろうか。

c)留意点
いかなる地震にも耐えられる、トーチカや核シェルターの様な頑固な建造物を造る必要はない。むしろ、1,000年に1度起こるかもしれない地震に対処する場合は、過剰投資にならぬことを心がけるべきではないだろうか。その上で、地震による人命の喪失をいかに防ぐか。そのためには、既設建造物をどう処置するかを行政は示すべきであろう。

行政としてやるべきことは、1.起こり得る最大の地震(プレート境界型地震及び直下型地震を区別する)の規模と震源位置及び発生する地震波形を想定して地盤条件に合った震度を図上に明示し、2.新知見の増加に応じ、耐震基準の見直しを行い、常に安全な建造物を造るための基準を明らかにすること、3.建造物の危険度判定法を制度化し、対処法を明示する。そして、4.“家検”を実行しようとする人を助成することに尽きる。あとは、個人の判断にまかせれば良いと思う。個人の判断に任せることを無責任と非難されるかもしれないが、これが行政の限界であると明言することも重要であろう。
 防災都市は行政が作り上げるものではなく、行政を含めて、そこに住む人々が協力しながら作り上げるものではなかろうか。また、今回の地震では、断層直上を除くと、家屋が破壊的に破壊された地域でさえ、土台や道路縁石などが損傷されずに残っている所が多く、並木の根も損傷されていないことを知った。自然地盤の損傷は少ないと判断せざるを得ない。したがって、既存家屋の耐震性の強化(土台との一体化)が問われていると考える。知恵やお金を使い地震を迎えうつか、危険を素早く察知し逃げ出し、危険が去った頃に舞い戻るか、座して死を迎えるかの選択は個人の判断にまかせる。行政に必要なのは、そのような選択が可能となる仕掛けを作り、実施することではないだろうか。
 建設予定地の地震情報を知り、地震の規模と震源地、そして地震時の地震波の影響を予測し、これらをシステム化し、現状に合わせた実用型に仕上げれば良い。そして学問の進歩に追従して改良を続けることである。
地震に安全な建物をどう建てるかは、建主や設計・施行に当たる専門家が何を重要と考えるかにある限られた予算であっても地震に安全な家は建てられよう。今回の地震で破壊された家屋及び倒れなかった家屋を設計・施行した専門家は、自分の設計・施行した家屋の破壊の原因を察知できていると思う。今回の地震災害で何を感じ、これから何をしようとしているのかが問題である。彼らは、正念場を迎えたと言える。《つづく》(05.1.25)

■ご案内■

 2004年の新潟県中越地震 を始め2003年の宮城県北部地震災害、 1995年の阪神淡路地震 など、日本はまさに地震列島と言わざるを得ません。また県内にも「福島西縁断層帯」が福島盆地北西縁を走っているのが確認され、多くの家屋は地震に対する備えが十分ではありません。
私ども三浦工匠店(有)は、これまで建築を手掛けた約200件のお客様に対し、日ごろから安全と安心な施工に万全を期しておりますが、こうした地震多発の今日こそ、地震に対する知識を学んでおくべきと考えております。今回、当メディアのメディアネットプランのご協力を戴き、来る2月27日(日)午前10時から、福島駅西の福島グリーンパレスで「都市直下型地震との共生を考えよう」と題するセミナーを開催いたします。講師には、地質調査の分野では第一人者であり、大和地質研究所の代表を務め理学博士・技術士である大村一夫氏をお招きしております。当社のお客様はもちろん、一般の方々にもぜひご来場を戴き、地震の備えに役立でて頂ければ幸いです。大変恐縮ですが、会場にも限りがございますので、先着50名様で締め切らせていだきます。
また、一般の方には聴講料1000円、会社関係の方には3000円の会場費をお願い申し上げます。
 お問い合せ・お申し込みは電話の方は当社(024−591−2719番)まで。メールの方は株式会社メディアネットプラン
info@medianetplan.com)までお願いします。こちらからご連絡を申し上げます。
                    三浦工匠店有限会社 代表取締役三浦藤夫



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