杜撰な青戸病院に学ぶ

今回は久しぶりに医療のことを取り上げてみたい。というのも先日、東京の慈恵会医科大学青戸病院でとんでもない医療ミスがあったからだ。これはもう医療ミスなどと言う段階ではない。殺人に近い行為である。すでに知られているニュースなので、詳しく再録するつもりはないが、“高度先進医療”の名のもとに経験未熟な3人の泌尿器科医が一度もやったことがない腹腔鏡による前立腺がんの手術をやった。それがうまくゆかず、6時間以上もかかった末、出血多量で患者を死亡させたケースである。この3人は警察に逮捕された。

 医師には「医師裁量権」というものがある。「医師免許があれば執刀医の実績や技量は一切問われず、何をやっても自由」と解釈されている特権だ。しかし今回の捜査でこの特権にメスが入れられた。本来メスは医師が持って体に入れるものだが、とうとうその逆の立場になってしまっだ。医療の歴史の中でも特記すべき出来事であることは間違いない。

 間題は、この未熟な医師たちが最先端医療を実施しているとされる大学病院に勤務し、治療を行っていたことだ。一度もやったことがない高度医療を半シロウト医者が実施しながら“最先端医療”大学、などと言っていたら、危険極まりない。大体、こんな手術を講師や助手風情が簡単にやれて、しかも人を殺してしまうような大学内の組織になっているのだろうか。教授・助教授は一体なにをしていたんだろうか。

 医療は常に高度な技術であり、常にそれが発揮されているハズのものだ。どんな小さな医療行為もすべて、医療者(医師・看護師・放射線技師など)が不断の努力を重ねて取得した技術を最大限に駆使して行われているものである。だから患者はそれを信頼して“身を委ねる"のだ。ということは、大学ぱかりが最先端医療をやっているのではない。最先端医療とは、最大限の安全策が講じられていて、より早く、苦しみも少なくて、完治する技術のことでなければなるまい。
 なんでも大学の医療が最先端を行っている、と信じる態度をこの際、考え直してみる必要があるだろう。「大学教授には診てもらうな。教授は臨床より論文に目が向いていて、治療は必ずしも上手とは限らない」という話もある。今回のとんでもない“事件”で、この辺の状況が劇的に変わってゆくことを強く望みたい。(2003・10・20)
元福島民報社専務取締役
編集局長 星 一男