東北・北海道「IT関連産業」実態まとまる
〜東大大学院・荒井良雄研究室が調査分析〜
当社などインターネット関連企業が協力

東京大学大学院総合文化研究科
人文地理学教室荒井良雄研究室

ソフトウェア・インターネット業は東北では2番目

 アンケート調査対象は、NTTインターネットタウンページで、「インターネット関連サービス」と「ソフトウェア業」のいずれかに登録、北海道と東北各県に立地する3,095事業所である。アンケート調査は2002年12月に行い、各事業所に郵送したのは,企業票1通、経営者1経営者票1通、従業員票3通。分析対象となる事業所は表1の通り。

 

情報サービス産業は九州より遅い

ソフトウェア業、インターネット関連サービスともに1990年代に設立された事業所が中心である。以前に九州で行った同様の調査と比較すると、東北・北海道において情報サービス産業が成長してきた時期が九州よりも遅かったことがわかる。なお、企業規模は、正社員5人以下が約50%、10人以下が約70%であった。

 

 

オーナーの現在の年齢は40歳代から50歳代前半

ここではオーナー企業とその経営者に対象を絞って分析を進めてゆく、経営者の95.2%は男性であり、起業前の職種はSEなどの情報関連職が32.0%、営業16.9%、経理・管理23.2%、その他23.6%であり.必ずしも技術系の起業が多いとはいえない。
現在の年齢は40歳代から50歳代前半が多かった一方、起業時の年齢は30歳代から40歳代前半までに集中しており、20代で創業は少ない。

 

経営者の約70%は現在出身地で経営

経営者の約70%は現在出身地で経営をしているが、進学や就職を機に大都市圏に移動し、大都市圏の企業での勤務経験を持つ者が多い。そこで、経営者のこれまでの移動経歴が、起業のプロセスや経営の特徴とどのような関連があるかを分析するため、創業者を地元定着、Uターン、Iターンに分類する。

 

自己資金を中心に借入れ調達範囲で創業

全体に資金が潤沢であるとはいえない中で創業に至っている。既存研究でも明らかにされているように、自己資金を中心に親・親戚などからの借り入れで調達できる範囲で創業している。興味深いのは、地元定着やUターンに比べて、Iターンでは比較的多額の創業資金を準備している場合が多いことである。

 

Iターンの84%は右腕社員がいる

今回の調査では、「現在、あなたの右腕となって経営上の重要な問題に対処してくれる役員・従業員はいますか」という質問で、経営上の「右腕社員」の存在を尋ねた.Iターンの84%は右腕社員がいると答えているのに対し、地元定着、Uターンではその割合がそれぞれ67%、64%にとどまっている。


年間売上高はIターンが最も高い

 つづいて、移動類型と具体的な経営指標との関係をみる.まず移動類型ごとに年間売上高(万円)をみると、Iターンが最も高く、地元定着、Uターンと続く。





Uターンは売上高が低く、かつ売上高伸ぴ率も低い

 売上高伸び率は、売上高が高くなるほど伸びにくくなるはずである。しかし売上高伸び率も売上高と同じで、Iターンが最も高く、Uターンが最も低い.つまりIターンは伸び率、売り上げともに高い.逆にUターンは売上高が低く、かつ売上高伸ぴ率も低いということになる。



取引関係は経営者の創業以前の人的ネットワーク

 売上高に占める割合が最も高い顧客の立地地域を見ると、Uターン、Iターンにおいて、最も重要な顧客が東京大都市圏に立地している割合が高いことがわかる。このことから、取引関係が経営者の創業以前の人的ネットワークと密接に関連していることが伺える。

 

 


経営者の属性と企業経営の特徴に関する考察

 それぞれの経営者は、何らかのいきさつがあって、現在の場所で企業経営を行っているわけだが、企業経営をする「場所」に対する位置づけは、経営者の移動経歴ごとに異なるのではないかと考えられる.Uターンや地元定着の経営者は、自分の出身県を事業経営の場所と定めていることからも伺えるように、多かれ少なかれ起業がその地域で暮らすための一手段としての意味合いを持つと思われる。これに対してIターン者は、何らかの企業経営上の必然性があって、その地域を選択して起業したと思われる。Uターン者について言えば、東京をはじめとする大都市圏での勤務経験があることから、大都市圏の顧客との取引はあるものの、立地地域でのコネクションが乏しいため、現状以上の事業拡大が難しくなっている。これに対してlターン者は、企業に際しての資金の準備が最も多く、経営上の右腕となる社員がそろっていることからも伺えるように、十分な準備を行った上で創業している。そしてそれが売上高や売上高伸び率に反映しているようである。


S Eより、コンテンツ制作の正社員の割合が多い

今回の調査ではソフトウェア業の従業員572人とインターネット関連サービス102人から回答を頂いた、対象者の84.9%は男性で、83.4%は正社員として雇用されていた.職種構成は、九州で行った調査と似通っているが、システムエンジニアの割合が若干少なく、コンテンツ制作の割合がやや多いなどの特徴がある。若干のばらつきはあるものの、職種ごとの平均年齢や平均年収も九州での調査結果と似通っている。

構成は20歳代後半から30歳代後半に集中

年齢構成は20歳代後半から30歳代後半までに集中している。






キャリアレベルごとに年収水準が大きく異なる

今回の調査では、対象者のキャリアレベルを尋ねている。アシスタント技術者は「一人前以前の養成段階にある技術者」、一人前の技術者は「技術的に情報処理試験第l種程度の知識ノウハウを有する技術者」、プロジェクトリーダーは「一人前以上の高度な専門知識を有し、なおかつ管理職相当の技術者」である。キャリアレベルごとに年収水準が大きく異なることがわかる。

 

従業員の通勤時間は、仙台市では40分台

従業員については、東北・北海道の広域中心都市である札幌市、仙台市に立地する事業所の従業員と、それ以外の事業所の従業員の間に特徴的な差異が認められた.従業員の通勤時間は、仙台市では40分台、札幌市では30分台の者が最も多かったのに対し、その他では10分台が卓越している。

 

 

従業員の居住形態は仙台市で賃貸が約50%占める

 従業員の居住する住宅の形態についてみると、札幌市と仙台市では賃貸住宅が約50%を占めているのに対し、その他では親と同居または相続によって得た住宅に居住する者が約40%を占めて最も多くなっている。つまり札幌市や仙台市では、最も居住地選択の自由度が高い賃貸住宅に居住する者が多いにもかかわらず、通勤時間が長く、逆にその他では、居住地選択の自由度が低い親の家に住んでいながら、通勤時間が最も短くなっている。

 


年収は札幌市の事業所の従業員が高額

年収を見ると、札幌市に立地する事業所の従業員が際だって高い。

 

 

 

 

キャリアレベルの高いことが年収水準の高さ

 札幌市の年収水準の高さは大都市であることによる部分も大きいが、札幌市ではキャリアレベルの高い従業員が多いことも年収水準の高さと関連していると思われる。

 

 

 

 

札幌市と仙台市の出身者はほとんどが両市で就業

 対象者の出身地と現在勤務している地域の関係を見ると、東北・北海道以外の出身者は1割にも満たないことがわかる。基本的に北海道出身の者は北海道に、東北出身の者は東北に勤めており、特に札幌市と仙台市出身の者はほとんどが両市で就業している。これに対して札幌市以外の北海道および仙台市以外の東北の出身者(以下ではそれぞれ北海道出身者、東北出身者と略す)は、それぞれかなりの人数が札幌市、仙台市で就業している。


仙台市で働く者とそうでない者のキャリアレベルに差はない

 こうした地域間移動は、札幌市のキャリアレベルの高さや年収水準の高さとも関わっていると考えられる。図13は東北出身者、北海道出身者について、現在仙台市、札幌市で働いている者とそうでない者に分けてキャリアレベルを見たものである。東北出身者の場合、現在仙台市で働いている者と出身地で働いている者(出身地定着者)の間のキャリアレベルにはほとんど差がない。
 このことは仙台市のキャリアレベル(図12)や年収水準(図11)が「その他」のカテゴリーと大きな差がなかったことに対応する。一方で北海道出身者の場合、札幌市移住者のキャリアレベルが出身地定着者のそれを大きく上回っている。つまりキャリアレベルの高い者が選択的に札幌市へと移住しているのである。

 

札幌市に優秀な人材を奪われている!

 札幌市は、情報サービス産業の集積地として有名である。今回の調査は、それを支える人材が北海道一円から札幌に流入していることを明らかにしている。逆に言えば、札幌市以外の北海道は、札幌市に優秀な人材を奪われていることが問題なのである。

本調査に関するお問い合わせ

東京大学大学院総合文化研究科 人文地理学教室
荒井研究室担当 中澤高志
電話:045・253・6505
email:nkzw23@odon.ocn.ne.jp